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東京地方裁判所 平成7年(刑わ)987号 判決 1996年3月22日

主文

被告人三名をそれぞれ懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中、被告人B及び被告人Cに対しては各二三〇日を、被告Dに対しては二二〇日を、それぞれその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人三名は、宗教法人オウム真理教(以下「教団」という。)に所属するものであるが、サリンを生成し、これを発散させて不特定多数の者を殺害する目的で、教団代表者A及び教団所属の多数の者と共謀の上、平成五年一一月ころから平成六年一二月下旬ころまでの間、山梨県西八代郡上九一色村富士ケ嶺九二五番地の二所在の第七サティアンと称する教団施設及びその周辺の教団施設等において、同サティアン内に設置するサリン生成化学プラント(以下「本件プラント」という。)の工程等の設計図書類の作成、本件プラントの施工に要する資材、器材及び部品類の調達、資材等の組立て、機械装置の据付け並びに配管及び配電作業を行うなどして本件プラントを完成させ、さらに、サリン生成に要する原材料であるフッ化ナトリウム、イソプロピルアルコール等の化学薬品を調達し、これらをサリンの生成工程に応じて本件プラントに投入し、これを作動させてサリンの生成を企て、もって、殺人の予備をした。

第二  被告人Dは、E及びFと共謀の上、平成六年一二月二六日ころから平成七年一月四日ころまでの間、静岡県富士市水戸島一六四番地の一所在の倉庫内において、同所が法令の定めるところにより許可を受けた貯蔵所でないのに、指定数量(四〇〇〇リットル)以上の危険物であるグリセリン約七一三五リットルを貯蔵した。

(証拠の標目) <省略>

(事実認定の補足説明)

一  本件の争点

1  被告人Bの弁護人の主張

被告人Bは、最終生成物である毒ガスが兵器として使用される可能性のあることを認識していたものの、教団が毒ガスを攻撃的に使用して不特定多数の者を殺害するかもしれないなどとは考えておらず、不特定多数の者を殺害する目的を未必的にも有していなかった。また、被告人Bは、専ら教団における上位者の指示に従ってサリン生成作業の一部分に従属的な立場から加担したに過ぎない。したがって、被告人Bは殺人予備罪の共同正犯ではなく、サリン生成工程のうち自己の関与した第一工程及び第二工程での稼働等について殺人予備罪の幇助犯の罪責を負うにすぎない。

2  被告人Cの弁護人の主張

(一) 被告人Cは、本件プラントにおいて生成された毒ガスが将来使用されることがあるとしても、それはAの予言におけるハルマゲドン(人類最終戦争のこと、以下同様。)において世界救済等のために外国勢力と戦うという限定された目的の下に使用されるものと認識していたのであるから、被告人Cの有していた目的は殺人予備罪が予想する殺人の目的とは質的に異なる。また、被告人Cは、設計や設備のずさんな本件プラントで毒ガスを生成することは不可能であると認識していたのであるから、被告人Cには殺人の目的はなかった。

(二) 被告人Cは、本件プラントを建設してサリンの生成を企てるという教団の一連の殺人予備行為について教団幹部又は他の教団信者らと共謀した事実はない。また、被告人Cはサリン生成過程のごくわずかな部分に関与したに過ぎないから、その行為は殺人予備罪の幇助犯にしかなり得ない。しかしながら、殺人予備罪は、本来、その犯罪類型が無限定であり、その幇助犯まで処罰するとなると処罰範囲を著しく拡張することになるから、殺人予備罪の幇助犯を処罰することは許されず、結局、被告人Cは無罪である。

3  被告人Dの弁護人の主張

被告人Dは、教団幹部から指示されてサリンの原材料及び電解プラントに必要なイオン交換膜ナフィオンを購入しただけで、本件プラントを建設してサリンの生成を企てるという本件一連の殺人予備行為全体について、教団幹部又は他の教団信者らとの間で具体的な共謀を遂げたわけではない。したがって、被告人Dは、右殺人予備行為全体に係る殺人予備罪の共同正犯ではなく、自己の関与したサリンの原材料及びイオン交換膜ナフィオンの購入について殺人予備罪の罪責を負うに過ぎない。

二  本件殺人予備行為の全容に関わる事実の検討

まず、本件事案の性質にかんがみ、本項において、争点に対する判断に必要な範囲で殺人予備行為の全容に関わる事実を検討した上、次項において、弁護人らの主張等について当裁判所の判断を示すことにする。

関係各証拠によれば、次のような事実(登場する人物はすべて教団信者である。)が認められる。

1  教団の組織及び概要等

(一) 教団は、昭和五九年ころ、Aが創始者となって発足させた「オウム神仙の会」を母体とする宗教団体であり、昭和六二年ころ、「オウム真理教」と改称し、平成元年八月、東京都から宗教法人の認証を得て、同月二九日付けで宗教法人登記をした。教団は、本件犯行当時には、総本部、道場のほか、全国各地に多数の支部を設立しており、国外にも支部を設けていた。平成六年九月当時の信者数は、一万五〇〇〇人余りで、その中には後記の出家信者が多数含まれていた。

(二) Aは、教団組織の最高位に就き、自らを「尊師」と尊称させて教団組織に君臨し、平成六年六月ころには、国の行政機関を模した省庁制を導入し、自治省、科学技術省、大蔵省等の多数の省庁を設置した上、各省庁に大臣及び次官を置いていた。

(三) 教団には出家制度が存在し、信者は、出家の際、その所有するすべての財産を教団に寄付することを義務付けられていた。出家信者は、オウム真理教のすべての戒律を守り、解脱及び救済活動に全精力を注ぐことを義務とし、シヴァ大神及び尊師であるAに生涯にわたって心身及び自己の財産を委ね、現世における一切の関わりを断ち、山梨県西八代郡上九一色村富士ケ嶺地区の教団施設等に起居することとされていた。出家信者は、いずれかの省庁に所属し、修行及び教団の上位者から指示される「ワーク」と呼ばれる作業に従事し、規定の修行の段階に応じて教団内の階級制度である「ステージ」が上昇していく制度となっていた。

2  本件殺人予備行為に至る経緯及び本件殺人予備行為

(一) サリンの大量生成計画について

Aは、かねてから、教団信者らに対し、ハルマゲドンの到来及び毒ガス攻撃による教団の被害等について説法等を行っていたが、教団幹部のGと共に、科学兵器である毒ガスの大量生成を企て、平成五年春ころ、Gを介し、Hに毒ガスの研究及び開発を行うよう命じた。

そして、A及びGは、毒ガスを大量生成した上、これをヘリコプターで散布して不特定多数の人を殺害することを計画し、同年九月ころ、ヘリコプターの操縦免許を取得させるため教団幹部のIらを米国に派遣したほか、同年一二月、ヘリコプターの購入契約を締結させるため教団幹部のJらをロシアに派遣し、平成六年六月、ロシアからヘリコプター一機を輸入した。

(二) サリンの大量生成の準備について

(1) その後、Aは、毒ガスの生成に必要な化学薬品を購入するため、教団幹部のEらに指示して、被告人Dに、平成五年四月ころ、教団のダミー会社を設立させ、同年六月ころから、同社を通して毒ガスの生成実験のための化学薬品等の購入を行わせた。

(2) 一方、Aは、平成五年三月か四月ころ、Jに対し、山梨県西八代郡上九一色村所在の第三上九地区に毒ガスの生成プラントを設置するための第七サティアンと称する建物(以下「第七サティアン」という。)を建設することを指示し、同年九月ころ、第七サティアン(東西約二七・五メートル、南北約一九・八メートル、高さ約一三・〇メートル、鉄筋三階建て)が完成した。

(3) Gから毒ガスの研究及び開発を行うよう命じられたHは、殺傷能力、原材料の大量購入の容易性及び生成工程の安全性等の観点からサリンを生成対象として選定した上、基礎実験等を繰り返し、平成五年八月ころ、大量生成を前提としたサリンの生成方法をほぼ特定し、その旨をGに報告した。Gは、教団において大量生成する毒ガスをサリンに決定し、一日当たり二トンの生成が可能なプラントを建設して合計七〇トンのサリンを生成する旨の計画を立て、Aの了解を得た。

Hは、そのころ、サリン合成実験を行うためのクシティガルバ棟と称するプレハブ建物(以下「クシティガルバ棟」という。)が建設されると、それ以降、同所において本格的にサリンの合成実験に取り掛かった。

(4) Aは、Eらに指示して、平成五年八月、被告人Dに教団のダミー会社を新たに設立させ、そのころから、同社を通して大量のサリン原材料等を調達させた。そして、同年一一月ころには、サリン生成に必要な化学薬品である三塩化リン、N.N-ジエチルアニリン等が大量に購入されていた。

(5) Gは、平成五年九月ころから、Kに指示して本件プラントの設計を行わせ、また、同年一〇月中旬ころ、Hの実施するサリン合成実験のパートナー及び救護担当者として、医師であり化学知識を備えた教団幹部のLを配置したほか、右実験に従事する複数の助手をHの下に配属した。

(三) サリン生成工程の考案及びこれに基づくサリンの生成実績について

Hは、本件プラントにおけるサリンの大量生成を前提とする第一工程から第五工程までの次のようなサリン生成工程を考案した。すなわち、第一工程では、三塩化リン及びメタノールを原料とし、溶媒としてn-ヘキサン(又は工業用ヘキサン、以下「ヘキサン」という。)、反応促進剤として、N.N-ジエチルアニリンをそれぞれ用い、亜リン酸トリメチル(第一工程生成物)を生成する。第二工程では、亜リン酸トリメチルに触媒としてヨウ素を加え、転位反応によりメチルホスホン酸ジメチル(第二工程生成物、以下「ジメチル」という。)を生成する。第三工程では、ジメチルに、三塩化リンに塩素を反応させて合成した五塩化リンを反応させ、メチルホスホン酸ジクロライド(第三工程生成物、以下「ジクロ」という。)を生成する。第四工程では、ジクロにフッ化ナトリウムを反応させ、メチルホスホン酸ジフルオライド(第四工程生成物、以下「ジフルオ」という。)を生成する。第五工程では、ジクロ及びジフルオの混合物にイソプロピルアルコールを反応させてサリン(最終生成物)を生成する(なお、副生成物として発生した塩化水素は、水酸化ナトリウムと反応させて塩化ナトリウムとして除去する。)というものである。

Hは、考案したサリン生成工程に基づき、平成五年一一月一〇日ころ、クシティガルバ棟において、サリンの標準サンプル二〇グラムの合成に成功した。

その後、H及びLらは、Gの指示により、同所において、同月中旬ころにサリン約六〇〇グラム、同年一二月中旬ころにサリン約三キログラムをそれぞれ生成したほか、平成六年二月中旬ころには第七サティアン三階においてサリン約三〇キログラムを生成するなどサリン生成の実績を積み重ねていった。

(四) サリンの毒性等について

サリン(化学名イソプロピルメチルホスホン酸フルオリダート)は、一般的には神経ガスに分類される自然界に存在しない有機リン化合物である。サリンは、有機リン化合物の化学兵器への転用研究の結果、昭和一三年にドイツで合成開発されたもので、常温下で無色無臭の揮発性の液体で感知しにくい上、吸入若しくは皮膚感染で容易に人体に吸収され、ごく少量でも吸収されると、縮瞳、視界不明瞭、気管支充血、吐き気、嘔吐、下痢、不随意排泄、痙攣、呼吸作用の衰退等の中毒症状を急速に呈し、自覚症状が現われたときには既に生命危機の可能性が高いという恐るべき毒性を持った極めて危険な化学兵器である。

なお、サリンは、加水分解を受け、これにより第一次分解物であるメチルホスホン酸モノイソプロピルとなり、更に分解して第二次分解物であるメチルホスホン酸に至ることが知られている。

(五) サリンの効果実験を兼ねた某宗教団体関係者暗殺計画等について

(1) Aは、かねてから某宗教団体関係者の暗殺を計画し、Iらに命じて、Hが生成したサリンをラジコンヘリコプターで散布する方法で右宗教団体関係者を殺害しようとしたが、Iらがラジコンヘリコプターの操縦に失敗してこれを大破させてしまったため、右方法で殺害することを断念した。

(2) その後、G、L、E及びKらは、平成五年一一月中旬ころ及び同年一二月中旬ころの二回にわたり、トラック等に積載した噴霧器にHが生成したサリンを注入し、これを噴霧する方法で右宗教団体関係者を殺害しようと試みたが、いずれも失敗に終わった。

(3) また、Lは、平成六年四月か五月ころ、Gから、振動子式の噴霧方法でサリンが噴霧されるかどうかの実験を指示され、加湿器をサリン噴霧用に改造して富士川河口の河川敷でサリンの噴霧実験を行った。

(六) 本件プラントの設計及び建設等について

(1) A及びGらは、H、Kらに対し、本件プラントの工程を検討してこれを設計するよう命じ、Kが、G及びHらから指示を受けつつ右工程を検討し、平成五年一一月ころには、Hの考案した前記サリン生成工程に沿った形の各工程の稼働に必要な原料タンク、ポンプ、反応釜、熱交換機等の機器類の選定を開始した。

(2) Aは、平成六年二月ころ、G、K及びMらに対し、厳しい督促をして本件プラントにおけるサリンの大量生成のための段取りを急がせた。そのため、Gは、同年三月ころ、Mの下に教団信者一名を配置して電解プラント(第三工程において五塩化リンを生成する際に必要な塩素を発生させる付属プラント)及び第四工程関係の設計を行わせ、Nの下に複数の教団信者を配置して電気配線及びコンピュータ制御関係の設計を行わせ、Kの下に複数の教団信者を配置して右以外の機械装置の設計を行わせた。

(3) 本件プラントの設置工事は、Kによる資材、器材及び部品類の調達を待って平成六年四月ころから本格的に開始され、プラント用機械装置設置用の鉄骨の組立て、右機械装置の製作及び据付け並びにプラントの配管及び配電作業等に多数の教団信者が動員された。その結果、同年八月ころには、第五工程で使用される角形反応釜が設置されるなど本件プラントの主要部分の建設が終了し、同年一一月ころには、第四工程において使用される耐食性反応釜が設置されると共に、電解プラントも完成し、同年一二月下旬ころまでには本件プラントが完成した。

(4) 本件プラントの主要部分は、容積八立方メートルほどの原料タンク八基のほか、多数のポンプ、反応釜、蒸留塔、熱交換機などの機械装置及びこれらの機械装置に接続する多数の配管、電気装置等から構成され、本件プラントの稼働を電気制御するための制御室及び前記電解プラントがこれに併設されていた。

(七) A及びLのプラント稼働要員に対する指令及び指示説明について

(1) Lは、平成六年七月上旬ころ、Gから、本件プラントの運転責任者に指名され、Gと協議の上、Kのほか被告人B及び被告人Cら十数名を本件プラントの稼働要員として選抜し、右稼働要員らを第七サティアンに常駐させてサリンの生成作業を行わせることにした。また、Gは、L及びEを介して、右稼働要員にポリグラフ検査を実施し、本件プラントの秘密を漏らす者がいないことを確認した。

(2) Aは、平成六年七月末ころ、被告人B及び被告人Cなど本件プラントの稼働要員を第二サティアン三階に集合させ、同人らに対し、「第七サティアンでワークしてもらう。大変危険なワークだが、四〇日間のリトリート修行だと思ってくれ。このワークに入れば菩長にする。」、「ワークに命を懸けられるか。このワークに命を懸けられない者は他のワークに回すから正直に言え。」、「やってもらうワークはかなり危険で、これを使うとどこかの大都市が壊滅する。オペレートの最中にボタン一つ間違えば、この上九一色、富士山麓全体が死の山となるぐらいの危険性があるから、オペレートに際しては十分注意するように。」などという内容の指令を発した。その後、被告人B及び被告人Cら右稼働要員は、第七サティアンからの外出を禁止され、泊まり込みで作業に従事した。

(3) Lは、平成六年八月上旬ころ、被告人B及び被告人Cら本件プラントの稼働要員を第七サティアン二階の部屋に集め、本件プラントの五つの工程及び生成する最終生成物の生成過程等について詳細な説明をした。Lは、その際、同人らに対し、Lの説明を書き留めたメモは、確実に廃棄し、第七サティアンでの作業内容は絶対に口外しないようにとの注意を与えた。また、Lは、同人らに対して最終生成物についての予備知識を与えるため、最終生成物が無色無臭で中毒症状が出るまで体内に摂取したことに気付かないこと、摂取されると程なく視界が暗くなり、次第に体が硬直して最終的には呼吸困難に陥って死に至るという特徴をもった極めて危険な化学物質である旨の説明をした上、疑わしい症状が出たら直ちに治療を受けるよう指示を与えた。

(八) 本件プラントにおける稼働の実態等について

(1) L及びKは、平成六年七月下旬ころ、本件プラントの第一工程の稼働要員として被告人Bらを配置し、被告人Bらは、同年九月初旬ころ以降、Kの指揮を受けつつ、二四時間態勢で第一工程を稼働させた。

また、Lは、そのころからほぼ毎日、第七サティアン二階の制御室に同サティアンに常駐していた本件プラントの稼働要員全員を集め、作業の進捗状況及び作業上の問題点等を把握するためのミーティングと称する打合せ会議(以下「ミーティング」という。)を開催するようになった。ミーティングでは、司会役のLが、右稼働要員に対し、作業の進捗状況などについて質問するなどしていたほか、当日の作業内容や作業員の配置について指示を与えたりしていた。なお、Gが第七サティアンに常駐するようになってからは、ミーティングの招集及び司会はGが行っていた。

(2) G及びKらは、平成六年一一月ころ、電解プラントの完成に伴い、第一工程及び第二工程の稼働要員を二班編成とし、被告人Bらを配置して二四時間態勢で右各工程を稼働させた。被告人Bらは、Kの指揮を受けつつ、作業が中止となった平成七年一月一日ころまでの間に、第二工程の中間生成物であるジメチル約一〇トンを生成し、これをタンクやドラム罐に入れて第七サティアン内に保管した。また、被告人Cほか数名の本件プラントの稼働要員は、平成六年一一月ころ以降、Mの指揮を受けつつ、二四時間態勢で電解プラントを稼働させた。

(3) 一方、Gの指示を受けたKは、平成六年一〇月ころ、第三工程を稼働させ、かねて購入しておいた五塩化リンを投入してジクロを生成した。さらに、Gは、同年一二月ころ、Mを補助者として第四工程を稼働させてジフルオ約六〇リットルを生成した。

(九) 本件プラントにおけるサリン生成の有無について

本件プラントの第一工程から第五工程までのタンク内などから、右各工程が稼働していたことをうかがわせる化学物質が検出されている。

とりわけ、第五工程の反応タンク内軸継手カップリング部からはサリンの第一次分解物であるメチルホスホン酸モノイソプロピルが検出され、第五工程排気処理塔内からもメチルホスホン酸モノイソプロピルが検出され、さらに、第五工程の塩化水素処理タンク内からは塩化水素が水酸化ナトリウムと反応して生じる塩化ナトリウムが検出されているなど、本件プラントの第五工程が稼働してサリンが生成されたことをうかがわせる痕跡が存在している。

(一〇) サリンを保管する準備態勢について

(1) Gは、本件プラントにおいて生成するサリンの保管方法を検討し、生成したサリンを順次ポリタンクに注入してこれをステンレス罐に収納することにし、複数の教団信者に指示して、ポリタンク及びステンレス罐を設計させた上、平成六年九月前後には、ポリタンク約三五〇〇個及びステンレス罐約三〇〇〇個を製作させた。

(2) 一方、Aは、平成六年九月ころ、Jに対し、生成したサリンを保管する地下貯蔵庫を第七上九地区にある倉庫内に建設するよう指示し、Jは、右指示に従って、Gから得たサリンの保管容器の大きさなどに関する情報に基づき、地下室を作ってサリンの貯蔵庫を完成させた。

3  各被告人の本決殺人予備行為への関与状況

(一) 被告人Bについて

(1) 大学の理科系学部出身の被告人Bは、教団の研究開発部門である科学技術省に所属する出家信者であったが、出家後の平成六年七月下旬ころから第七サティアンに常駐し、同年八月ころからKの指導を受けて本件プラントの第一工程及び第二工程の制御オペレーターとして右各工程の稼働に関与し、第二工程でジメチル約一〇トンを生成したほか、同年一〇月ころには、Gから指示され、ジフルオの生成には失敗したものの、第四工程の稼働に関与した。被告人Bは、自己の関与する作業が、最終生成物を生成するための工程の一部であり、最終生成物の生成に必要不可欠な重要な作業であると理解していた。

(2) 被告人Bは、平成六年六月中旬ころから同年七月初めころまでの間、教団と敵対する人物の殺害に使用されるものであることを認識しつつ、細菌等の有害物質の噴霧装置等の製作等に関与したことがあったほか、大掛かりな化学プラントの存在、稼働要員の選抜の経緯、秘密性の高い稼働態勢並びに本件プラントの稼働要員に対する前記Aの指令及びLの説明などから、同年八月上旬ころまでには、本件プラントにおける自己の作業が、これまでの教団の組織的かつ有機的な作業の成果を生かしつつ大量の毒ガスを生成するための作業の一環であることを認識した。しかし、被告人Bは、作業に従事することが修行であり、毒ガスの生成はAや教団に対する大いなる貢献であって、毒ガスによって日本国や教団の信者を救済することにもなるので、毒ガスの具体的な使用方法は、Aほか教団幹部の意思に任せようなどと考えて自己の行為を正当化し、毒ガスがAらにより使用されて不特定多数の人が殺害されてもやむをえないと認容しつつ、Aら共犯者の意図を了承した上、本件プラントの稼働に関与した。

(二) 被告人Cについて

(1) 大学院の理科系課程出身の被告人Cは、教団の研究開発部門である科学技術省に所属する出家信者であったが、平成六年四月ころから、Gらの指示により、本件プラントで使用する塩素ガス中に混入する水素ガスの濃度を測定する濃度測定装置、塩水に溶け込む塩素の濃度測定器、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムの濃度測定器等の購入、設置を行うなど電解プラントの建設準備に携わった。また、被告人Cは、配下の教団信者約八名から成る作業班の責任者として、第二上九地区内の工場において、本件プラント用タンクの内面などにテフロンコーティングを施すなどサリンその他の中間生成物の生成時に発生する腐食性ガス等によりタンク等が腐食することを防止する上で必要不可欠な作業に従事した。被告人Cは、同年六月ころから第七サティアンにおける電解プラントの建設に従事し、さらに、同年七月末ころ以降は同サティアンに常駐し、同年一一月下旬ころから、電解プラントの稼働に関与して五塩化リンの生成に必要な塩素を第三工程に供給した。

(2) 被告人Cは、平成六年八月上旬ころには、前記Aの指令及びLの説明などから、本件プラントにおける最終生成物が毒ガスであることを認識し、また、自らが稼働に関与する電解プラントは、毒ガスの生成工程に必要な塩素を供給する付属プラントであることも認識した。被告人Cは、作業班の責任者の経歴もあったことなどから、自己が他の多数の教団信者による従前の作業の成果を生かしつつ右教団信者と共同して組織的に大量殺戮のための毒ガスを生成しようとしていることを十分認識し、その犯罪性も十分に理解していた。しかしながら、被告人Cは、本件プラントでの稼働がAの直接命じたワークであり、「タントラ・ヴァジラヤーナ」(教団の独自の教義において最も早く解脱を得る道)の教えによれば他者にとって良いことであるなどと自己の行為を正当化し、本件プラントで生成される毒ガスが教団により使用されて不特定多数の人が殺害されてもやむをえないと認容しつつ、Aら共犯者の意図を了承した上、本件プラントの稼働に関与した。

(三) 被告人Dについて

(1) 大学の薬学系学部出身の被告人Dは、A及びその家族の警護、上九一色村等の教団施設の警備並びにスパイの摘発等を担当する部門である自治省に所属する出家信者であった。被告人Dは、平成五年四月以降、Eらの指示を受け、教団の複数のダミー会社を成立してサリン生成等に必要な薬品を購入するようになり、同年八月ころからは、サリン原材料となる薬品の大量購入を開始し、平成六年二月ころまでの間に、三塩化リン(第一工程の原料)合計約一八〇トン、メタノール(第一工程の原料)合計約九〇トン、ヨウ素(第二工程の触媒)合計約五五〇キログラム、五塩化リン(第三工程の原料)合計約九六〇キログラム、フッ化ナトリウム(第四工程の原料)合計約五四トン、イソプロピルアルコール(第五工程の原料)合計約五四トン、N.N-ジエチルアニリン(第一工程の反応促進剤)合計約五〇トン、ヘキサン(第一工程の溶媒)合計約六〇トンという大量の薬品を購入したほか、同年三月ころ、第七サティアン内に搬入した三塩化リン入りのドラム罐が腐食した際、K及びLの指示により、三塩化リンを別のドラム罐に移し替えるなど購入したサリン原材料の管理にも従事した。

また、被告人Dは、同年二月ころから同年一二月ころにかけて数回にわたり、G及びKらの指示により、電解プラントに必要なイオン交換膜ナフィオンを購入したほか、同年五月ころから同年八月ころにかけて、Kの指示により、五塩化リンの生成に使用する塩素ガスボンベ数本を、同年九月ころには、Hの指示により、五塩化リン一〇〇キログラムを、そして、同年一〇月ころから同年一二月ころにかけて数回にわたり、Kの指示により、水酸化ナトリウム約四〇トンをそれぞれ購入した。

(2) 被告人Dは、平成五年一〇月ころまでには、Hの話などから、自己の購入する薬品を原材料として、建設予定の本件プラントにおいてサリン七〇トンを生成するという具体的な計画があり、それがAの指令に基づき他の教団信者の共同作業によって組織的に実行されるものであることを知った。被告人Dは、当時は、Aの教義が最高で唯一のものであると心酔していたところから、ハルマゲドン到来の際に大量のサリンを使用して多数の人を無差別に殺傷したとしても、それが教団の理想を達成するために必要なものであればやむを得ないと考えて自己を正当化し、Aら共犯者の意図を了承した上、他の教団信者と一体となってサリンの大量生成に関与しているとの認識の下に、サリンの原材料等の調達責任者としてその購入等に継続的に従事した。

三  当裁判所の判断

1  殺人予備罪の成立始期

まず、前記二の認定事実を踏まえ、当裁判所が殺人予備罪の成立始期を平成五年一一月ころと認定した根拠について補足的に説明する。

殺人予備罪の成立始期については、本件殺人予備が教団組織の総力を結集して綿密な計画と周到な準備の下に行われた犯行であること及びサリンがごく少量で多数の者を殺害し得る恐るべき毒性を有する化学兵器であることを踏まえた上、サリンの大量生成を前提とするサリン生成工程の考案の有無及びこれに基づくサリンの生成実績並びにサリン原材料等の入手状況、サリン生成設備の準備状況及びサリン散布手段の準備状況等を総合的に考慮して、殺人罪の構成要件実現のための客観的な危険性という観点から、実質的に重要な意義を持ち、客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた時期がどの時点であったかによって判断されるべきものと考えられる。

そこで、検討するに、平成五年一一月ころの時点において、Hが本件プラントにおけるサリンの大量生成を前提とするサリンの生成工程を考案し、これに基づきサリンの標準サンプル二〇グラムの合成に成功した上、さらにサリン六〇〇グラムの生成に成功していたことが明らかである。これに加え、この時点において、サリンの生成に必要な化学薬品等が教団のダミー会社を通して既に大量に購入されていたこと、第七サティアンが既に完成し、Hの考案したサリン生成工程に沿った形の各工程の稼働に必要な機器類の選定が開始されていたこと、ヘリコプターによるサリン散布計画を実行するため、ヘリコプターの操縦免許を取得させる目的で教団幹部らを米国に派遣していたことも前に認定したとおりである。

以上の事実に照らすと、平成五年一一月ころの時点において、殺人予備罪の成立に必要な程度の準備が整えられたと認めるのが相当である。そこで、この時点を殺人予備罪の成立始期と認定した。

2  殺人目的の有無及び共同正犯の成否

前記二の認定事実に照らすと、本件の争点である殺人予備罪における殺人目的の有無及び殺人予備罪の共同正犯の成否については、以下のように考えるのが相当である。

まず、被告人B及び被告人Cは、本件プラントが毒ガスを生成することを目的とするものであることを十分に認識した上、生成された毒ガスがAらにより使用されて不特定多数の人が殺害されたとしてもやむを得ないことであると認容していたものと認められるから、被告人B及び被告人Cには殺人予備罪における殺人の目的があったものというべきである。

次に、被告人三名は、殺人の目的で、サリンの大量生成に不可欠な行為を自ら行っているのであるから、被告人三名の各行為はその実態に照らしていずれも殺人予備罪の実行行為と認めるに十分である。そして、本件は、A及び教団幹部が、謀議の上、専門的な技量等を有する被告人三名を含む多数の教団信者に対し、それぞれ個別的に、あるいは教団施設に集結させて殺人予備行為を指示し、これを実行させた組織的かつ計画的な犯行であること、右教団信者の分担した各殺人予備行為の内容は、サリンの大量生成を指向した相互に有機的な関連性を有する形態のものであること、右教団信者は、各殺人予備行為の内容が右のような形態のものであることを認識した上、A及びその意を受けた教団幹部の指示の下に本件殺人予備行為を一体となって行っているとの認識を相互に有しつつ、その分担する殺人予備行為を共同して遂行していたことをそれぞれ認めることができる。

以上のような本件事実関係の下においては、被告人三名については、A、あるいは被告人三名に対する指揮命令系統に立つ教団幹部との間の縦の関係及び本件殺人予備に係る作業等を共にするなどした教団信者との間の横の関係において、同時的にあるいは順次に共謀が成立したものと認めることができる。また、被告人三名については、被告人三名に対する指揮命令系統に立たない教団幹部との間の関係及び被告人三名と本件殺人予備に係る作業等を共にしていない教団信者との間の関係においても、A、あるいは被告人三名に対する指揮命令系統に立つ教団幹部等を介することによって共謀が成立したと認めるのが相当である。そうすると、被告人三名は、他の共謀者の殺人予備行為についても、それぞれ共同正犯としての罪責を負うというべきである。

なお、被告人B及び被告人Cが本件プラントが毒ガスを生成することを目的とするものであることを認識したのは平成六年八月ころであり、当裁判所が殺人予備罪の成立始期として認定した平成五年一一月ころの時点から右のような認識をもって本件殺人予備行為に関与していたというわけではない。しかしながら、本件は、前記のとおりの組織的かつ計画的な犯行であり、本件殺人予備行為を全体的に観察すると、殺人予備罪の成立始期と認められる同月ころから平成六年一二月下旬ころまでの間、サリンの大量生成に向けられた相互に有機的な関連性を有する殺人予備行為が発展的に強化されつつ積み重ねられ、殺人罪の構成要件実現の客観的危険性が一層高まっていった経緯が明らかである。そうすると、本件一連の殺人予備行為は、全体的に不可分一体として見るべき性質を持った殺人予備一罪と評価すべきものである。しかも、被告人B及び被告人Cは、本件プラントが毒ガスを生成することを目的とするものであることを認識した前記平成六年八月ころ以降は、それ以前の本件殺人予備行為についても、他の教団信者がAら教団幹部の指示の下に毒ガスの大量生成の一環として行っていたものであることを承知した上、その成果を生かしつつ自己の担当する殺人予備の実行行為に及んでいたことが明らかである。以上のような本件の事実関係の下においては、被告人B及び被告人Cは、平成五年一一月ころから平成六年一二月下旬ころの時期にわたる本件犯行全体について共同正犯としての罪責を負うというべきである。

四  結論

以上の検討によれば、被告人B及び被告人Cには殺人予備罪における殺人の目的があり、また、被告人三名は殺人予備罪の共同正犯であると認めるのが相当であるから、被告人三名の各弁護人の主張はいずれも採用しない。

(法令の適用)

一  被告人B及び被告人Cについて

被告人B及び被告人Cの判示第一の所為はいずれも平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)六〇条、二〇一条(一九九条)に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人B及び被告人Cをそれぞれ懲役一年六月に処し、いずれも同法二一条を適用して未決勾留日数中各二三〇日をそれぞれその刑に算入することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人Cに負担させないこととする。

二  被告人Dについて

被告人Dの判示第一の所為は改正前の刑法六〇条、二〇一条(一九九条)に、判示第二の所為は同法六〇条、消防法四一条一項二号、一〇条一項にそれぞれ該当するところ、判示第二の罪について所定刑中懲役刑を選択し、以上は改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人Dを懲役一年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中二二〇日を右刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人Dに負担させないこととする。

(量刑の理由)

一  被告人三名に共通する殺人予備の全般的情状

本件は、被告人三名が、教団代表者であるAほか教団所属の多数の者と共謀の上、猛毒のサリンを生成、発散させて不特定多数の者を殺害する目的で殺人予備を行ったという事案であり、その動機自体、人道上厳しく非難されるべきものであって酌量の余地は全くない。

犯行の態様は、教団におけるAの絶対的地位を背景として、教団組織の総力を結集し、綿密な計画と周到な準備の下に、大掛かりで複雑なサリン生成用プラントを完成、稼働させてサリンの大量生成を企てたというものであって、組織的かつ計画的で大規模な犯行である。

サリンという化学物質が、いわゆる松本サリン事件、地下鉄サリン事件で多くの人命を奪って社会を震撼させたことは公知の事実であるところ、本件プラントにおいて現にサリンが生成されていたようにうかがわれる上、教団施設内に大量のサリン生成用原材料が保管され、サリンの貯蔵設備も整えられていたことなどの事情に照らすと、上九一色村においてサリンの残留物が検出された旨の新聞報道の影響によりAらが本件プラントの一部解体を余儀なくされていなければ、本件プラントの稼働によって程なく大量のサリンが生成され、これが貯蔵されるに至ったものと考えられる。Aらがサリンの効果実験を兼ねた某宗教団体関係者の暗殺計画を実行に移すなどしていた状況を併せ考えると、大量に生成されたサリンが無差別大量殺人のために使用される危険性が極めて高かったともいえるのであって、その際の被害の大きさには想像を絶するものがある。

加えて、本件プラントからの悪臭、有毒物質の流出等により、生命、身体等に対する危険に日々さらされていた周辺住民の本件プラントに対する恐怖感には察するに余りあるものがあったといえる。

以上のような犯行の動機、態様及び危険性等に照らすと、本件は殺人予備罪としては、他に類例のない凶悪かつ重大な犯行であるというべきである。

二  被告人三人の個別的情状

1  被告人Bについて

被告人Bは、長期間にわたり第七サティアンに常駐し、制御オペレーターとして本件プラントの第一工程及び第二工程の稼働に関与して第二工程でジメチル約一〇トンを生成したほか、第四工程の稼働にも関与するなど本件犯行において極めて重要な役割を果たしているのであって、その刑事責任は重い。

しかしながら、他方、被告人Bは、本件犯行の重大さに気付いたことなどから教団を脱会していること、いかなる処分にも服する旨の上申書を提出するなど本件犯行を真摯に反省していること、前科、前歴がないこと、二四歳と若年であること、両親が被告人Bの更正のためには援助を惜しまない旨当公判廷において述べると共に同趣旨の上申書を提出していること、かつて被告人Bの世話をしたことのある住職が被告人Bの更正に尽力する旨の上申書を提出していることなど被告人Bのために酌むべき事情も認められる。

2  被告人Cについて

被告人Cは、第七サティアンに常駐して電解プラントの稼働に関与するなど本件犯行において極めて重要な役割を果たしているのであって、その刑事責任は重い。

しかしながら、他方、被告人Cは、本件犯行の重大さに気付いたことなどから教団を脱会していること、本件犯行を詫びる旨の上申書を提出するなど真摯に反省していること、前科、前歴がないこと、既に教団を脱会している母親が情状証人として出廷して被告人Cに対する母親としての心遣いを示していることなど被告人Cのために酌むべき事情も認められる。

3  被告人Dについて

被告人Dは、サリンの大量生成計画を承知した上、教団のダミー会社を通してサリン生成に必要な化学薬品等を継続的に購入するなど本件殺人予備の犯行において極めて重要な役割を果たしている。

被告人Dの関与した本件消防法違反の事案は、ダミー会社を通して爆薬の原材料であるグリセリンを購入した上、これを倉庫に貯蔵したというものであり、グリセリンの貯蔵量などにかんがみると、極めて危険性の高い犯行であり、犯情は悪質である。

以上によれば、被告人Dの刑事責任は重い。

しかしながら、他方、サリン生成用原材料等の調達は、教団幹部らの強力な指示に基づくものであって被告人Dの発案によるものではないこと、被告人Dは、本件犯行の重大さに気付いたことなどから教団を脱会していること、本件犯行に対する悔悟の情から、法律扶助協会に対して贖罪寄付金五〇万円、オウム真理教被害見舞基金に対して償罪寄付金五〇万円をそれぞれ寄付していること、交通事犯による罰金前科が一犯あるのみであること、いまだ二六歳という年齢であること、右贖罪寄付金等を工面した父親が被告人Dの更正のために尽力する旨当公判廷で述べていることなど被告人Dのために酌むべき事情も認められる。

そこで、被告人三名について、以上の諸事情を総合考慮し、それぞれ主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑、被告人三名についてそれぞれ懲役一年八月)

(裁判長裁判官 田中康郎 裁判官 田村眞 裁判官 鈴木謙也)

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